中国の中流階級は不景気で消えるのか?広がる「逆戻り貧困」のリアル

4/21(月) 8:30配信

36Kr Japan

中国における「逆戻り」の実態——目に見えにくい体感的な貧困

国家統計局のデータによると、総所得から所得税や社会保障費を引いた可処分所得は増加傾向にあります。つまり、全体的に見れば中流階級は貧困化しているとは言えないのです。しかし、実際に生活者が手にすることができるお金は、住宅ローンや自動車ローン、子どもの教育費、日常の通勤費といった固定費を差し引いた後の金額に大きく依存します。収入が増加しても支出がそれ以上に膨らめば、「貧しくなった」「生活が厳しい」と感じることになるのです。

かつては、給与が年々増加し、企業も成長を続け、投資をすれば必ず回収できるという良い時代がありました。2000年代以降、中国では外資系企業やIT・金融業が成長し、それに携わった人々は富を得ました。しかし、外資系企業の社員数はピーク時の約3000万人から2023年には2000万人にまで減少しており、IT企業も最近では大規模なリストラを実施し、高収入の職業であっても突然の失業の危機にさらされています。同時に、多くの若者が高騰する不動産市場の中で住宅を購入し、ローン返済に追われる生活を余儀なくされています。さらに、経済の先行きが不透明な中で仕事の安定性も低下しており、中流層に対する経済的圧力がじわじわと高まっています。

中国のオンラインコミュニティでは「返貧三件套」や「返貧五件套」といった言葉が登場しています。これらの言葉の定義は文脈によって異なりますが、主に「不動産」「子どものエリート教育」「失業」「無計画な起業」「盲目的な投資」といった要素が挙げられています。これらは中流層の不安定さを象徴する言葉として広まっています。

「中流らしさ」は金銭的な面だけでなく、ライフスタイルにも関わっています

中流階級の特徴として、「社会の発展水準に見合ったライフスタイル」が重要視されるようになっています。

中国経済は急速に成長し、かつてはブランドの服や車、パソコンなどの「物」によって自身の地位を示していましたが、最近では消費の焦点が「外見上のステータスシンボル」から「ライフスタイル」や「精神的充実(マインドフルネス)」へと移行しています。

この傾向は、中国版インスタグラムとも称されるSNS「小紅書(RED)」の人気コンテンツからも見て取れます。アパレルに代わって、飲食、旅行、教育、アウトドア、スポーツといった「体験消費」が主流になっています。

また、アニメやゲーム、アイドルといったサブカルチャーに関連する消費も新たに台頭しています。かつてのように共通の服や車といった基準で差別化される時代は過ぎ去り、個々の趣味や嗜好によってアイデンティティを表現する時代に突入しています。

その結果、中国の消費者は「こだわりのない」ところでは合理的にダウングレードし、コストパフォーマンスを重視する傾向が強まっています。例えば、外食ではサイゼリヤやアパレルではユニクロといった、品質と価格のバランスに優れたブランドが支持されています。また、ECプラットフォームの淘宝(タオバオ)では、安価な商品で「物欲」を満たすことが一般化しており、欲しいブランドがあればOEM製品を探してより安く手に入れるという消費行動も珍しくありません。

従来の物理的な消費は都市部で抑制される一方、農村部ではインターネットや物流インフラの整備が進んでおり、都市部の中流階級と同レベルの消費が可能になっています。

総括すると、世帯年収が10万元以上であれば中流階級に分類されますが、中国のバブル時代の先行投資による債務が重くのしかかり、多くの人々が「逆戻りの不安」を抱えています。また、現在の中流階級の消費スタイルは、支払った金額の多寡ではなく、自分の趣味や嗜好に満足できるかどうかが重要であり、それこそが「新中流階級」と言えるでしょう。今後の中国では、こうした価値観がさらに広がることが予想されます。

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